ブログ

ブログ BLOG

2026.09.25

賃貸物件の原状回復|オーナー負担と借主負担の境界線【住居用と事業用】

オーナー様向け・2026年版

原状回復の費用、
どこから先が
オーナー負担か

退去立会いでもめる原因は、たいてい「線引きの根拠」がないこと。住居用と事業用では原則が違うという点も、あわせて整理します。

3〜4割賃貸相談に占める
敷金・原状回復
6年クロスが
残存価値1円になる
621条通常損耗は
借主の義務外

部位別の分担表を見るタップで各項目が開きます

名和建装株式会社 MEIWA KENSOU|名古屋市昭和区・創業1988年

01

オーナー負担と借主負担、結論は4つ

賃貸住宅のトラブルは消費生活センターに毎年3〜4万件寄せられ、そのうち3〜4割を敷金・原状回復が占めます(国土交通省住宅局参事官「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」令和5年3月)。争点はほぼ同じで、「この傷みは誰が払うのか」の一点です。まず結論から押さえます。

🏠

経年変化・通常損耗

日焼けによるクロスの変色、家具のへこみなどはオーナー負担

🚬

故意・過失・手入れ不足

タバコのヤニ、放置したカビ、落書きなどは借主負担

📉

借主負担でも全額ではない

入居が長いほど負担割合は下がる。クロスは6年で1円

🏢

事業用は原則が変わる

店舗・オフィスは契約の特約が前面に出る。住居の常識が通らない

つまりオーナーが負担するのは、「次の借主に貸すために、いずれ必要になったはずの費用」です。逆に借主へ請求できるのは、「その人が住まなければ発生しなかった費用」に限られます。この一行が、以下すべての判断のもとになります。

02

線引きの根拠は、民法とガイドラインの2本

2020年4月に施行された改正民法で、原状回復の範囲は条文に明記されました。民法621条は、借主が原状に復する義務を負うのは受け取った後に生じた損傷であるとしたうえで、かっこ書きで「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と定めています。日常的に住んで生じた傷みは、そもそも借主の義務の外にある、ということです。

もう1本が国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」です。ここでは原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。借りたときの状態に戻すことではない、と明確に述べられている点が要です。

なぜ通常損耗が借主の負担にならないのか。ガイドラインは、通常損耗の回収はすでに毎月の賃料に含まれているという考え方を採っています。退去時にも請求すれば、同じ損耗を契約期間中と明渡し時で二重に評価することになる、という理屈です。

ガイドラインには法的拘束力はなく、最終的には契約内容や物件の使用状況によって個別に判断されるもの、と本文にも書かれています。ただし裁判例の蓄積をふまえた「妥当と考えられる一般的な基準」であり、トラブルになったときに双方が最初に参照する物差しであることは間違いありません。オーナー側がこれを知らずに請求すると、根拠のない請求として押し返されます。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」/同ガイドラインに関する参考資料(令和5年3月・PDF)

03

部位別・どちらの負担になるか

ガイドラインの別表3「賃貸人・賃借人の修繕分担表」から、実務で争いになりやすい項目を抜き出しました。タップすると開きます。

① 壁・天井(クロス)もめやすさNo.1
オーナー負担:テレビ・冷蔵庫の裏の電気ヤケ、ポスターや絵画の跡、画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)、借主が設置したエアコンのビス穴、日照によるクロスの変色
借主負担:タバコのヤニ・臭い、結露を放置して広がったカビやシミ、清掃を怠った台所の油汚れ、重量物をかけるためのくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度)、落書き
② 床(畳・フローリング・カーペット)金額が大きい
オーナー負担:破損していないのに次の入居者確保のために行う畳の裏返し・表替え、フローリングのワックスがけ、家具の設置によるへこみ・設置跡、雨漏りなど建物側の原因による色落ち
借主負担:飲み物をこぼしたシミやカビ(こぼした後の手入れ不足)、冷蔵庫下のサビ跡の放置、引越作業で付けた引っかき傷、不注意で雨を吹き込ませた色落ち
③ 設備・鍵・クリーニング誤請求が多い
オーナー負担:専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃をしている場合)、臭いの付着がないエアコンの内部洗浄、台所・トイレの消毒、破損のない浴槽・風呂釜の取替え、破損も紛失もない場合の鍵の取替え、寿命による設備の故障
借主負担:手入れを怠った換気扇・コンロまわりの油汚れ、水垢やカビの放置、用法違反による設備の毀損、鍵の紛失・破損による取替え、戸建賃貸の庭に生い茂った雑草
💡 見落としやすいポイント:「次の入居者を確保するために行う工事」「グレードアップの要素がある工事」は、原状回復ではなくオーナー側の投資です。退去者へは請求できません。ここを混ぜると、請求全体の信用が落ちます。

04

借主負担でも、長く住んだ分だけ請求額は下がる

借主に原状回復義務がある場合でも、工事費の全額を請求できるわけではありません。ガイドラインは設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減らす考え方を採っています。2007年の税制改正で残存価値が廃止され、耐用年数の経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを受けた扱いです。

クロスであれば、6年で残存価値1円となる直線を引き、そこに入居年数を当てはめます。6年住んだ借主のクロス張替え負担は、原則としてほぼゼロになるということです。

クロス(耐用年数6年)の借主負担割合の目安

1年
2年
3年
4年
5年
6年〜
約83%
約67%
約50%
約33%
約17%
ほぼ1円

※入居時点でクロスが新品だった場合の定額法による目安。入居時の状態によって出発点は下がります。

主な設備の耐用年数(ガイドライン別表2)

5年:流し台
6年:エアコン等の冷暖房機器、電気冷蔵庫、ガスレンジ、インターホン、カーペット、クロス
8年:金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚など)
15年:便器、洗面台などの給排水・衛生設備、主として金属製の器具・備品
建物の耐用年数:ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)

経過年数を考慮しない4つの例外

オーナー側が知っておくと有利なのが、減額の対象外となる項目です。ガイドラインは次のものについて、経過年数を考慮せずに借主負担としています。

フローリングの部分補修 — 部分的に直しても床全体の価値が上がるわけではないため、補修費用は全額が借主負担
襖紙・障子紙・畳表 — 消耗品としての性格が強く、減価償却の考え方になじまない
鍵の紛失 — シリンダー交換費用の全額が借主負担
通常の清掃を実施していない場合のクリーニング — 部位ごと、または住戸全体の清掃費用相当分が借主負担

ただしフローリング全体を張り替えた場合は、経過年数を考慮するのが適当とされています。「部分補修だから全額」「全面だから按分」という順序を取り違えないでください。

05

店舗・オフィスは、住居の常識が通用しない

ここまでは住居用の話です。同じ「原状回復」でも、事業用物件はまったく別の世界になります。ガイドラインは居住用建物の賃貸借を前提に組み立てられており、消費者契約法による借主保護も、相手が事業者であれば働きません。

その結果、事業用では契約書の特約が前面に出ます。「退去時はスケルトン(躯体現し)に戻す」「通常損耗を含めて借主が負担する」といった条項が有効に機能し、住居用なら貸主負担になるはずの経年劣化分まで借主が負うケースが一般的です。テナント側から見れば厳しい条件ですが、オーナー側から見ればその特約が契約書に具体的に書かれているかどうかがすべてということでもあります。

住居用に特約を付けるときの3要件
住居用でも特約自体は可能ですが、ガイドラインは有効性の要件として、①特約の必要性があり暴利的でないなど客観的・合理的理由があること、②借主が通常の原状回復義務を超えた義務を負うと認識していること、③借主が義務負担の意思表示をしていること、の3点を挙げています。契約書に一行入れただけでは足りません。

事業用の工事内容も住居用とは規模が違います。内装解体、床・天井の撤去、電気・空調・給排水設備の撤去と復旧、防災設備の原状復帰、看板やサインの撤去、そして大量の産業廃棄物処分。飲食店であればグリストラップやダクトの扱いも加わります。名和建装が現状回復・店舗内装で相談を受ける案件も、この事業用側が中心です。

オーナーとして押さえるべきは、「どこまで戻してもらうか」を契約時に図面と文章で確定させておくこと。退去時に初めて協議を始めると、テナント側の工事範囲と、次の募集に向けてオーナーが自ら手を入れる範囲の切り分けができず、工期も費用も膨らみます。

06

費用相場は、住居用と事業用で桁が変わる

以下は2026年9月21日時点で公開されている一般的な市場相場の目安です。建物の状態・階数・搬入経路・ビルの規定によって上下しますので、判断の物差しとしてご覧ください。

住居用(アパート・マンション)

クロス張替え:1㎡あたり約800〜1,500円
ハウスクリーニング:1K〜1DKで約2〜4万円
1室まるごとの原状回復:ワンルームで約5〜15万円、ファミリータイプで約15〜40万円

事業用(店舗・オフィス)

オフィスの事務所仕様戻し:坪あたり約5〜15万円
店舗のスケルトン戻し:坪あたり約5〜15万円(飲食は設備撤去が多く上振れ)
大手デベロッパー物件で施工業者が指定されている場合:坪あたり20万円を超える例も

⚠️ 2026年は建築資材・廃材処分費・人件費の上昇が続いています。過去の退去時の金額をそのまま来期の修繕予算に置くと不足します。

なお、退去日が迫ってから1社に任せると相場を大きく超える請求になりがちです。オーナー側で工事を手配する場合も、範囲を図面で切って複数社に同じ条件で見積りを取るのが結局は早く、安く収まります。いずれにしても金額は現地を見なければ確定しませんので、最終的には現地確認のうえお見積りをご用意します。

07

もめないオーナーがやっている3つのこと

原状回復のトラブルは、退去時ではなく契約時と入居時に仕込まれます。ガイドラインも、原状回復は契約終了時だけの問題ではなく賃貸借契約当初の問題としてとらえる必要がある、と明記しています。

① 入居時・退去時の状態を写真で残す

ガイドラインは、入退去時にチェックリストを作り、部位ごとの損耗状況を当事者双方で確認することを勧めています。傷の位置を平面図に記入し、写真を撮る。この一手間が、後の交渉で唯一効く証拠になります。日付が残る形で撮影してください。

② 原状回復条件を契約書に添付する

ガイドラインには別表3として、契約書に添付する原状回復条件の様式が用意されています。修繕分担表・借主の負担範囲・工事施工目安単価を書き込む形式です。単価まで示しておくことが紛争防止に欠かせないとされており、特約を設けるなら必須といえます。

③ 「請求する工事」と「投資する工事」を分けて発注する

借主へ請求する復旧工事と、次の募集のためにグレードを上げる工事は、見積書の段階で分けておきます。まとめて1本の見積りにすると、請求できない分まで混ざっているように見え、交渉が長引きます。分けておけば、空室期間を縮めるための投資判断もしやすくなります。

退去のタイミングは、普段は手を入れられない箇所をまとめて直せる機会でもあります。外壁や屋上防水の状態が気になっているなら、塗装・防水の劣化サインと発注タイミングもあわせてご覧ください。室内に雨染みが出ている場合は原状回復の前に原因の特定が必要です。その見極めは雨漏りの侵入経路の記事で解説しています。

08

名和建装の原状回復・現状回復工事

名和建装は1988年創業、名古屋市昭和区の工務店です。塗装会社ではなく、内装・塗装・防水・設備・電気までを自社と協力会社で一貫して手配できる体制のため、原状回復のように「内装も設備も看板も一度に動かす」工事と相性がよいのが特徴です。窓口がひとつで済み、業者ごとの工程調整をオーナー様が抱え込まずにすみます。

賃貸住宅の1室単位の復旧から、テナント退去後の店舗・オフィスのスケルトン戻し、そのまま次のテナント向けの内装工事まで対応します。退去立会いに同行し、借主へ請求できる範囲とオーナー様の投資になる範囲を分けたお見積りをお出しすることも可能です。判断の根拠は、この記事で示した国土交通省ガイドラインに沿ってご説明します。

一級建築士が在籍しているため、間取り変更や用途変更をともなう改装のご相談にも同じ窓口で対応できます。店舗の改装で補助金の活用を検討される場合は、持続化補助金と対象工事の線引きもご参照ください。

09

よくある質問

Qハウスクリーニング代を借主負担にする特約は有効ですか?

住居用では、3要件を満たさない限り認められにくい項目です。ガイドライン上、借主が通常の清掃をしていれば全体のハウスクリーニングはオーナー負担。特約にするなら必要性・合理的理由の説明と、金額の明示、借主の明確な合意が要ります。

Qタバコのヤニで部屋全体のクロスを張り替えました。全額請求できますか?

借主負担の対象ですが、入居年数に応じて減額されます。クロスは6年で残存価値1円。喫煙による変色・臭いは通常の使用を超えるものとして扱われますが、6年以上住んでいた場合、張替え費用のほぼ全額をオーナーが負担する結果になることもあります。

Q耐用年数を過ぎた設備は、壊されても請求できないのですか?

請求できる場合があります。ガイドラインは、経過年数を超えた設備でも借主は善管注意義務を負うとしています。故意・過失で破損させ使用不能にした場合は、本来機能していた状態に戻すための工事費や人件費が借主負担になることがある、と明記されています。

Q1面だけ傷んだクロスを、部屋全体で張り替えたいのですが。

工事は自由ですが、借主への請求範囲は別です。ガイドラインは、借主の負担対象を補修工事が可能な最低限度の施工単位としています。色や模様を合わせるための他面の張替えは、商品価値の維持としてオーナー側の判断・負担と整理されるのが原則です。

Qトラブルになったとき、どこに相談すればよいですか?

自治体の相談窓口と、調停などのADRがあります。ガイドラインにも行政機関への相談、調停・仲裁の手続きが整理されています。愛知県・名古屋市にも消費生活相談や住宅関連の相談窓口があり、少額訴訟手続が使える場合もあります。

現地調査・お見積り無料

退去が決まったら、立会いの前にご相談ください

「この傷みは請求できるのか」「どこまで直せば次が決まるのか」。現地を見て、借主へ請求できる範囲と、オーナー様の投資になる範囲を分けてご報告します。住戸1室から、テナント区画のスケルトン戻しまで対応します。

お電話でのご相談(受付 10:00〜17:00)052-842-1144

メールフォームで問い合わせる

名和建装株式会社|愛知県名古屋市昭和区
対応エリア:名古屋市内をはじめ愛知県全域
「原状回復の費用負担のページを見た」とお伝えいただくとスムーズです

© MEIWA KENSOU Co., Ltd. ※本ページの情報は公開時点のものです
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」/同ガイドラインに関する参考資料(令和5年3月)/民法621条
費用は市場相場の目安(2026年9月21日時点)
お問い合わせ